幾何学から級数、そして無限乗積へ ... 円周率の素顔が次第に明らかになります

 今回は πの歴史 という本を紹介します。私が今まで読んできた数学関連書籍の中でもベスト 10 に入るぐらいの面白い本なので、自信をもっておすすめします。

πの歴史

πの歴史 (ちくま学芸文庫)

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 今からおよそ 4 千年前、すでに古代エジプトでは円周率の近似値が

π = (16/9)2

であることが知られていました。彼らはどのようにしてその値を知ったのでしょうか? 本書では、それを推測するために杭とロープと砂だけで円周率を求める方法について述べられています。このように少々荒っぽく思われる方法に始まって、円の近似法も時代を経ると徐々に精度を高めていきます。古代ギリシャ人は幾何学的手法を用いてより良い値を算出し、ニュートンは積分を用いて非常に高い精度の近似値を求めることに成功しています。やがて「精度」だけでなく「計算の速さ」も重視されるようになり、マチンはグレゴリーの級数を改良してより速く収束する円周率の級数展開を発見しました。天才数学者オイラーは 無限乗積 という美しい数式で円周率を表現し、確率論の発展はモンテカルロ法による近似計算を生みだしました。さらに高度な代数学によって円周率は超越数(√2 とは異なる無理数)であることが示されます。そして 20 世紀に入るとコンピュータの発達に伴い、実用性とは全く無縁の「巨大な桁数」を求める競争が過熱していきます ...... と駆け足で全体を俯瞰しましたが、円周率にまつわる個々のエピソードはとても面白く、図形や数式もきちんと載せられています(煩わしければ、そこを飛ばしても歴史の流れは理解できます)。
 歴史的背景もふんだんに散りばめられているので、人類と円周率 4000 年の歴史をダイナミックに感じることのできる珠玉の1冊です。

ローマ帝国は数学や科学に何1つ貢献しませんでした

 ところで、著者のペートル・ベックマン (Peter Beckman) の歯に衣着せぬ文体は読んでいてすがすがしくなります。特にローマ人に対する批評は辛辣を極め、
「ローマ人とは組織化された強盗集団に過ぎず、彼らは科学・芸術・建築・法律・工学、あらゆる方面で何ひとつ業績を残すことはなかった。彼らの手によるものに見えるものは全て他所からの借り物に過ぎない。にもかかわらず後世の人に『ローマは偉大な帝国であった』という幻想を残している。そこだけが唯一ナチスやソ連と違う点である」
と述べています。(これは個人的意見ですが)私もまったく同感です。なぜかローマから遠い果てにあるはずの我が国でも、様々な書籍を通して「ローマは偉大な国だったのである」というような風聞が広まっていますが、彼らは世界中の富を独占したにも関わらず(その気になれば学問に莫大な投資ができたはずなのに)、彼らの数学や科学に対する貢献はゼロどころかマイナスです。あの時代、数学の重要な定理などは1つも発見されていません。「数百年かけて1つもないって ...... どこまで馬鹿なの?」と目を丸くしてしまうほどです。まあ発見しないだけならまだ許せるとして、エジプトのアレクサンドリア図書館を焼き払ったのは(彼らが意図して焼いたわけではないにしても)目を覆いたくなる暴挙です。事件の当事者であるユリウス・カエサルも現代では相当に美化されていますが、学問や文化に対して全く無知な田舎者であることについては他のローマ人と五十歩百歩です。いずれにしても、ローマという存在が人類の科学技術発展を数百年は遅らせたことだけは確かです。
 

不思議な数πの伝記

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 「直径 1 に対する円周の長さ」 ...... このように幾何学的に定義されているにも関わらず、一見すると円とは全く関係のない分野でひょっこりと顔を出すのが円周率πなのです。たとえば「ランダムに選んだ 2 つの自然数 m, n が互いに素になる (互いに 1 以外の公約数をもたない数である)確率」は円周率を用いて 6/π2 と表されます。不思議ですね。本書はこの神出鬼没なπの素顔に迫る色々なトピックが載っています。学問的話題のみならず「円周率にはどうしてπという記号が使われるの?」、「世界各国の円周率記憶名人は、どんな語呂合わせで記憶しているの?」という小話も楽しいです。
 記事冒頭で紹介した『πの歴史』よりは数学的にやさしい内容となっていますので、高校生でも無理なく読めます。ルーローの三角形やラマヌジャンの近似式など、大学の講義ではなかなか登場しない話も載っているので、もちろん理工学部の学生さんにもおすすめです。
 

円周率を計算した男

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 関孝和は現代でもその名を広く知られた和算の大家ですが、その弟子のなかに建部賢弘という天才的な算術家がいました。タイトルにあるように、彼は独自に円周率を求める計算式を発見しましたが、それは海の彼方の大数学者オイラーと同じ方法だったのです。洋の東西を問わず、ひと口に算術家(数学者)といっても、算術との向き合い方や捉え方、信念は人によって様々な個性があります。建部賢弘は師である関孝和とは異なる美学をもっていました。彼は師との軋轢を抱えながらも円周率の美しい表式を明らかに ...... 表題作『円周率を計算した男』を始め、『風狂算法』、『初夢』、『やぶつばきの降り敷く』など江戸時代に活躍した算術家たちの生涯を、詳細な資料をもとに描いた六篇を収録した時代小説です。

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