未来は決まっている?(量子力学が記述するミクロの世界の奇妙な振る舞い)

 ボーア、シュレーディンガー、ハイゼンベルク、ディラック ......
 20 世紀初頭の名だたる物理学者たちはミクロの世界の物質の振る舞いを次々と解明し、「量子力学」という新しい理論を完成させました。しかしこの理論を打ち立てた当人たちでさえ、そのあまりに奇妙な振る舞いに戸惑いを隠せなかったようです。
 
 生涯において量子力学に批判的だったアインシュタインはボーア宛の手紙の中で「神はサイコロを振らないと確信している」という有名な言葉を残しています。

 自然界のサイコロが存在するのか、しないのか。

 これこそが量子力学と古典力学を隔てる根源的な仕組みの違いであり、また今回のシリーズのテーマとしているものです。

 前回の記事でお話したように、ニュートンが確立した古典力学にはサイコロが登場する余地など全くありません。アインシュタインの相対性理論においても、その点は同じです。宇宙が始まったときの初期条件によって、以後の出来事は(たとえ何十億年経とうとも)全てが必然的に定まってしまうのです。

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小さな物質の奇妙な振る舞い

 しかし量子力学は違います。
 電子のような素粒子はきわめてランダムに動きます。
 これは様々な外的要因が素粒子の振る舞いに影響を与えているわけではなく、素粒子自身がもっている本来的な性質です。素粒子が次にどこに行くのか、それを正確に知ることは誰にもできないのです。理論によって予測することができるのは「次はこのあたりにいるだろう」という確率だけです。量子力学とは、こうした確率の波(波動関数)を方程式で記述する学問なのです。

 とはいえ「粒子が次にどこに動くか無作為に決まっている」というだけのことでしたら、ジグザグに動き回る粒子をイメージするのは難しくないですし、「まあ自然界とはそのようになっているのだな」とまだ納得できる範疇だと思います。しかしこの無作為性の背景には、もっと根源的なものが隠されているのです。
 

不確定性原理

 量子力学の根幹となる仕組み、それが 不確定性原理 とよばれるものです。これは素粒子が「測定されるまでは位置と速度をもたない」という、とんでもない原理です。
 私たちの常識では、GPS などの計測器さえあれば、走っている車の位置も速度も測ることができます。それは車が 位置速度 という計測可能な量をもっているからです。

 「当たり前だ!」と思われるかもしれませんが、素粒子にはその「あるはずのもの」がありません。「それらしきもの」はありますが、それは確率的にしか表せないのです。「ここにいるであろう確率」とか「このぐらいの速さになる確率」というものです。さらにややこしいことに、この位置と速度は互いに不可分な関係にあって「どちらかを正確に決めようとするほど、もう一方はどんどんわからなくなってしまう」のです。いえ、わからなくなってしまうというより、その量を失ってしまうのです。

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マクロスケールでは把握できません

 これまで便宜的に量子力学を小さな物質の振る舞いを記述する理論だと述べてきましたが、実は量子力学はボールのように大きな(より正確に言えば膨大な数の原子が寄り集まった)物体に適用することも可能です。ただそうした場合、ボール全体としての位置の不確定さはボールが占有する空間の大きさに比べると極めて小さなものなので、近似的には古典力学と同じ法則に落ち着いてしまいます。

 たとえば、歩いている人間の位置の不確定さが仮に原子 1000 個並べたぐらいあったとしても誰も気にもとめません。個々の原子の存在位置が多少無作為に揺れていても、原子の集合体はだいたいそこにいると認識できるのです。

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未来は決まっている?

 さて、いよいよここから「未来は決まっているのか」という謎について考察してみたいと思います。まず量子力学的観点に立つと、未来における全ての素粒子の配置を原理的に定めることはできそうにありません。そのような厳密な意味で捉えるなら、未来は明らかに定まっていないのです(ただしこれには別の解釈もあるので、次回以降の記事でお話する予定です)。

 しかしボールであるとか、人間であるとか、そういう原子の集合体の、メートル単位での運動はある程度予測可能です(だからこそ現在でもロケットの軌道計算には古典力学が使われているのです)。

 そして時間の経過に伴う原子スケールの小さなずれの積み重ねが、人間 ~ 地球サイズにおいてどれほどの意味をもつのか、ということを計算するのは技術的困難を伴います(ほとんど不可能だと思います)。なので定量化できない以上は仮説を述べることしかできません。

 ある人間を構成する夥しい数の原子(これも呼吸や食事などによって常に周囲の物質と入れ替えられます)も未来の決定に対してなんらかの影響はあると思いますが、とりあえず今は脳内の思考をつかさどる電気信号に絞って考えてみます。電流とは電荷の移動であり、その担い手はたくさんの電子です。

 個々の電子の振る舞いは無作為であっても、それが寄り集まった電流というものは上手く制御してやると、システムを思うとおりに動かすことができます。テレビやエアコンは滅多なことで誤作動を起こしません。ただ脳の仕組みはもっと複雑でしょうし、意識のメカニズムがどのように制御されているかはわかりませんが、そこはブラックボックスのままにして、話を先に進めましょう。

 もしある人物の「道が二手に分かれているぞ。右に行こう」という意識に 1% もの無作為性を及ぼすと仮定してみましょう。その場合、全く同じ状況に置かれたとしても 99 回は右を選択しますが、1 回は左を選択してしまうことになります。これほど大きな無作為性があれば、未来は全く予測できない(というより定まらないものとなります)。全人類 70 億人規模であれば、10 秒先であっても無数の可能性が生じることになります。数日、数か月、数年というスケールで考えると移動経路のバリエーションは膨大なものとなって、人生において出会う人も変わり、結婚相手も変わり、結果として次の世代に生まれてくる子供たちも変わるでしょう。

 もちろん、これは 1% という適当な見積もりで考察したので、この数字次第で結論が変わることになります。上で述べたように未来は完全にランダムなのか、それとも大体のところで決まっているのか、あるいは 100 年単位ぐらい積み重なって初めて目に見えるほどの無作為性が生じるのか ...... うーん ...... やっぱり私にはわかりませんね。「ここまで引張っといて、そりゃないだろう!」と怒られるかもしれませんが、このあたりが私の思考力の限界です。できれば皆さんの意見も伺いたいので、コメントよろしくお願いします。

 量子力学の説明がかなり大雑把になってしまったので、次回以降もこのテーマにとどまって、もうちょっと細かいところを考えてみたいと思います。

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