虚数について思うこと

 『数学よもやま話』というカテゴリーを追加しました。数学について雑多な話題をあれこれ語ってみるというコーナーです。難しい計算はないので気楽に読んでください。初回シリーズでは虚数や複素数について色々思うことを語ってみたいと思います。
 

虚数はどこに?

  虚数 というものに初めて目にしたとき、戸惑った人も多いと思います。

x2 = -1 の解を虚数単位 i とする   [1]

というのが虚数の定義です。つまり「 2 乗して - 1 となる数」を 虚数 と定義しているのですが、それまでの学習では実数しか扱ってこなかったのですから、無意識に「 2 乗して - 1 」となる数を頭の中にある数直線の中から探してしまうかもしれません。

 「数直線上のどこにもないよ」と説明されても、「存在しない数」などというものをそれほど簡単に納得できるものではありません。しかし数学Ⅲの複素数平面を習うまでは、その曖昧な説明を我慢して飲みこんでおくしかないというのも何だかストレスが溜まりますね。
 

虚数は存在します!

 しかし虚数は決して「虚構の数」などではありません。ちゃんと存在する数です。ただ「実数直線上にはない」というだけのことです。そもそも、この 虚数 という名称が(歴史的経緯が絡んで仕方ないにしても)本当に良くないです。英語では imaginary number と呼びますが、これもまた「想像上の数」という意味ですから良くないのです。
 こんな名称を繰り返し聞かされていると「やっぱり存在しない数なんだね」ということを無意識に頭に刻み込まれてしまうかもしれません ...... と言いつつ、この記事でも「虚数、虚数」と連呼してしまっていますけどね ...... だって私が勝手に呼び名を変えるわけにもいかないですからね。

 虚数とは 実数とは演算規則の異なる別種の数体系 です。
 ここで両者の四則演算を対比してみましょう。

 <実数> 1 + 1 = 2, 1 - 1 = 0, 1 × 1 = 1, 1 ÷ 1 = 1   [2]
 <虚数> i + i = 2 i, i - i = 0, i × i = - 1, i ÷ i = 1    [3]

 足し算・引き算は同じですが、掛け算と割り算が違っていますね。
 「割り算はどちらも 1 になってるよ。同じでしょ」と早合点しないように!
 実数では同じ数同士の割り算が 1 という基本単位になっているわけですから、同じ規則にしたければ「 i ÷ i = i 」としなければなりません。 i という数は実数と区別するためにアルファベットで表記していますけど、いわゆる虚数世界の「 1 」なのです。ちなみに「 i ÷ i = 1 」という結果は i / i の分子・分母に i をかけて、

i / i = i・i / i・i = (-1) / (-1) = 1

という計算によるものです。虚数同士の掛け算

i × i = - 1   [4]

が良く知られた「 2 乗して - 1 になる」という虚数の定義ですが、これもまた虚数世界の中で「 2 乗して - 1 になる」という意味の「 i × i = - i 」という演算規則を作っているわけではないことに注意してください。 [4] の本質は符号がプラスかマイナスかということではなく、「虚数同士の演算で虚数が実数に変換されている」というところにあります。

 いずれにしても虚数は実数とは演算規則の異なる体系ですから実数直線に載せるわけにもいかず、別の数直線を使って表すことになります。
 

複素数平面

複素数とは実数と虚数を含めた分類名で、実数と虚数を足し合わせた形で定義されます:

z = a + b i (a, b は実数、i は虚数単位)   [5]

 この形で全ての複素数が表せます。b = 0 とすれば実数になり、 a = 0 かつ b ≠ 0 の場合は虚数となります。a ≠ 0 かつ b ≠ 0 であれば実数でも虚数でもなく単に「複素数」とよばれます。また複素数を構成する a を実数部分(実部)、b を虚数部分(虚部)とよびます。
 そして下図のように横軸に実数部分(実軸), 縦軸に虚数部分(虚軸)をとれば、[5] で表される任意の複素数は平面上の 1 点に対応させることができます。

 複素数平面z=a+ib

 見た目は普通の直交座標に見えますけど、今まで 2 次関数などに用いてきた両軸実数の x - y グラフとは異なるものです。横軸と縦軸では「単位」が違っています。
 

全くの他人同士ではないわけで ......

 実数と虚数は演算規則の異なる別個の数体系にあると説明しましたが、その 2 種類の数を足すことに意味はなさそうに思えます。実数と虚数は「基本単位」が違っています。自然界を説明する物理学では単位の異なる量を足すなど、あってはならないことです。

1 m + 1 kg

などという足し算には全く意味がないからです。物理学科の学生さんが試験でこんな答案を書いたら留年させられるかもしれませんのでご注意くださいな。しかし実数と虚数の間の関係は完全に他人同士というわけでもないのです。演算規則 [3] にある

i × i = - 1, i ÷ i = 1

という演算が両者を結びつけているからです。つまり虚数同士の演算によって実数に変換されてしまうことがあるということです。「ある数に i を掛ける」という演算は複素数平面上の回転操作になることが知られています。

 複素数平面における回転操作

 i を掛けるごとに反時計回りに回転していますね。このように「本来なら虚数世界にあるものを実数世界に移してしまう」という不思議な性質を備えています。一方で演算規則 [2] を見るとわかるように、どれほど頑張って実数同士をいじってみたところで虚数に変換されることはありえません。ここがまた実数と虚数の面白い関係でもありますね。ここでは詳しく扱いませんが複素数を

z = r exp (iθ)  ( r は原点からの距離、θは実軸からの角度)

という極形式で表したとき、虚数倍は反時計周り 90° の回転操作を、実数倍は 0° の回転操作であることがわかります(演習問題 CPXA シリーズで扱います)。

 これまでの説明でわかるように「虚数が実数軸に存在しないので存在しない数」と主張するのは、「実数は虚数軸に存在しないので存在しない数」と言っているのと同じことになってしまいます。
 

入れ替えてしまいましょう

 ちょっとした実験で遊んでみましょう。実数と区別するために虚数単位は i というアルファベットで表していますが、思いきってこれを外して、1, 2, 3, ...... という記号で表してみましょう。代わりに実数には k という単位を与えます。すると [2], [3] はこのように書き換えられます。

 <実数> k + k = 2 k, k - k = 0, k × k = k, k ÷ k = k    [6]
 <虚数> 1 + 1 = 2, 1 - 1 = 0, 1 × 1 = - k, 1 ÷ 1 = k   [7]

 案外、こうしてみたほうが虚数の性質がわかりやすいのかもしれません。
 [7] を見ると「実数 k に変換されてしまってるよ」ということが目立ってますからね。
 このような記号に書き換えても数学的には問題はないはずですが、人類が虚数単位で数学を構築することは不可能だったと思います。これまで何度も説明したように、虚数同士の演算で実数世界に移ってしまいますから、虚数世界を定義するためには、先にどうしても実数世界が必要となるからです。もしどこか遠くの惑星に文明が築かれていたとしても、ほぼ間違いなく実数から数学をスタートさせているはずです(たぶん)。次回もあと少しだけ虚数について気になることを書いてみます。

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