他の教科に比べても、「数学」は苦手意識をもつ人が断トツで多い科目です。「数式なんて見るのも嫌だ!」という、もはや拒絶反応レベルにまで達している人も少なからずいるようです。こうした傾向を説明するために「学校での教え方が悪いから、数学嫌いの生徒が増えるのだ」というように、教育問題の方向に話が行ってしまうことが多々あります。確かに一部にはそうした要因もあることは否定しませんが(そもそも、それは学校ごとの個別のケースなので一般的な議論のしようがありません)、私としては「数学は苦手で当たり前。生まれつき数学が得意な人は変わり者」だと思っています。
数式は特殊な言語です
ほとんどの科目の教科書は日本語で書かれています。英語は例外ですけど、それでも人間が普通に使用する自然言語で記述されていることに変わりはありません。ところが数学の本質部分は、自然言語と数式を組合わせて構築された別の言語体系といえるものです。もちろん、授業などで概念を説明する時には補助的な意味で本来的な自然言語が用いられます。
小学校で学ぶ「算数」は日常生活で用いる計算技術を習得するもので、数学とは異なります。算数は普通に日本語で書かれています。つまり多くの人は中学生になって初めて、ほとんど自覚のないまま、異質な言語の障壁にぶつかって面食らってしまうのです。それまでに全く馴染みのない言語ですから、戸惑うのは当たり前です。算数が得意だった子が中学に入って数学が苦手になってしまうこともよくあるようです。
これが英語であれば「初めて学ぶであろう生徒のために初歩的なことから丁寧に」というスタンスで教科書が書かれているので、しっかりと授業を聞いて、予習・復習をしていれば、読み書きについては大体理解できるようになります。しかし、数学の教科書は新しい言語を習得させるという姿勢で書かれていないので、英語の教科書に比べると「文法」に関する説明は十分ではないと感じます。
しかし、数学が異質な言語で書かれているという自覚をもたないまま努力をしても、基本的な文法が身につかず、必ずしも成績向上に結びつかないことがあります。問題が解けないことで自己嫌悪に陥ることもあるかもしれません。しかしそこは
「こんなの解けなくて当たり前じゃん!」
と開き直ってしまいましょう。「解く」前に「読む」ことが大切です。意気込みだけで問題に挑戦しても、解けないと嫌な気持ちになって、ますます数学嫌いになってしまいます。
まずは数学の教科書を最低でも3回はじっくり読みます。定理の証明などは読むだけでなく書き写して理解するように努めます。そのあとで、なるべく詳しい解答が載っている参考書を買います。ただし、そこで意気込んで問題に挑戦することをぐっと我慢して、最初は「解答を読んで仕組みを理解する」ことにエネルギーを集中します。けっこう難しい水準の問題であっても、「読む」だけなら案外できてしまうものです。正しい作法で書かれた数学の解答をたくさん読むうちに、次第に数学のからくりや解答パターン、答案の書き方というものが頭に定着します。そのあとで初めて問題を解くことに挑戦してください。以前のように「まったく手をつけられない」ことはないはずです。数学という新しい言語体系が頭の中にインストールされているので、きちんと「数学」で思考することができるようになっているのです。その先は標準難易度から始めて、どんどん問題を解いて実力をつけてください。ここまで回り道してたくさんの時間を使いましたけど、それが決して無駄ではないと確信できるはずです。
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