グレゴリー級数・マチン級数
逆正接関数(アークタンジェント)の級数展開を求め、円周率の近似値を計算する式(グレゴリー級数とマチン級数)を導きます。
逆正接関数の級数展開
逆正接関数を級数展開するために、まずは $f(x)=1/(1-x)$ を展開します。
マクローリン展開公式
\[f(x)\simeq f(0)+f^{\prime}(0)x+\frac{f^{\prime}(0)}{2!}x^2+\: \cdots \:+\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n\]
を用いると、
\[\frac{1}{1-x}=1+x+x^2+x^3+\:\cdots\]
となります。$x$ を $-x^2$ に置き換えると
\[\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-x^6+\:\cdots\tag{1}\]
という展開式が得られます。逆正接関数の導関数は
\[(\mathrm{Arctan}x)^{\prime}=\frac{1}{1+x^2}\]
で与えられるので、逆正接関数を
\[\mathrm{Arctan}x=\int_0^x\frac{dt}{1+t^2}\tag{2}\]
と積分で表すことができます。この式に (1) を代入すると
\[\begin{align*}\mathrm{Arctan}x&=\int_0^x(1-t^2+t^4-t^6+\:\cdots)\\[6pt]
&=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\:\cdots\tag{3}\end{align*}\]
が得られます。
グレゴリー級数
$\tan \pi/4=1$ を逆正接関数で表すと
\[\frac{\pi}{4}=\mathrm{Arctan}1\]
なので、級数 (3) に $x=1$ を代入して
\[\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\:\cdots\tag{4}\]
という円周率の級数表示が得られます。この級数をグレゴリー級数 (Expansion of Arctangent) とよびます。しかし、この級数の収束はかなり遅く、1200 項まで計算してようやく 3.140759 程度の精度です(真値は3.141593)。
マチン級数
イギリスの天文学者ジョン・マチンはより収束の速い円周率の級数、マチン級数 (Machin’s formula) を発見しました。その導出はかなり技巧的です。まず 2 つの定数 $\alpha$ と $\beta$ を
\[\tan\alpha=\frac{1}{5},\quad\tan\beta=\frac{1}{239}\]
で定義します。すなわち
\[\alpha=\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{5},\quad \beta=\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{239}\]
です。倍角公式を用いると
\[\begin{align*}\tan 2\alpha&=\frac{2\tan\alpha}{1-\tan^2\alpha}=\frac{5}{12}\\[6pt]\tan 4\alpha&=\frac{2 \tan 2\alpha}{1-\tan^2 2\alpha}=\frac{120}{119}\end{align*}\]
となります。さらに加法定理を使うと
\[\tan (4\alpha -\beta)=\frac{\tan 4\alpha -\tan\beta}{1+\tan 4\alpha \tan\beta}=1\]
となるのです。$1=\tan (\pi/4)$ なので
\[\frac{\pi}{4}=4 \alpha -\beta\]
が得られます。この関係式を逆正接関数で書き直すと
\[\frac{\pi}{4}=4\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{5}-\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{239}\tag{5}\]
となります。具体的に計算するときは逆正接関数の級数展開式 (3) を用いて
\[\begin{align*}\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{5}&=\frac{1}{5}-\frac{1}{3}\left( \frac{1}{5}\right)^3+\frac{1}{5}\left( \frac{1}{5}\right)^5-\frac{1}{7}\left( \frac{1}{5}\right)^7\:\cdots\tag{A}\\[6pt]\mathrm{Arctan}\:\frac{1}{239}&=\frac{1}{239}-\frac{1}{3}\left( \frac{1}{239}\right)^3+\frac{1}{5}\left( \frac{1}{239}\right)^5-\frac{1}{7}\left( \frac{1}{239}\right)^7\:\cdots\tag{B}\end{align*}\]
を適当な項まで計算して (5) に代入します。(B) の各項は非常に小さいので、3 つか 4 つの項で打ち切っても高い精度の値が得られます。試しに (A) を 5 項まで、(B) を 3 項までとって (5) を計算してみると 3.141592682 という値が得られます。真値が 3.141592654 なので、7 桁の精度で一致していることになります。
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