【実無限と可能無限】無限の実在について論じます

 今回も 無限の不思議 についてあれこれ考えてみます。
 無限を表す ∞ という記号自体は高校の数学Ⅲで初めて登場します。
 しかし、無限の概念そのものはそれよりもずっと前の段階、小学校1年生の算数でかぞえ方を学んだ時にすでに出会っているのです。
 
\[1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8,\ 9\ \cdots\]
というようにかぞえていくときに「かぞえられるのはここまでだよ」なんてことを教える先生はいないはずです。暗黙のうちに「数はどこまでもかぞえられる」というようなルールが示されているのです。つまり数学は自然数というものを定義したその瞬間から無限という摩訶不思議な概念も生みだしてしまっているのです。

あらゆる場面に無限は登場します

 そのあと割り算と小数を習って
 
\[1\div 3=0.33333\ …\]
という計算をするときも小数点以下に 3 が 無限に続く という場面に出くわします。答えを書くときは小数点以下 3 桁とか 4 桁とか適当なところで打ち切るように教えられます。まあ、なんとなく無限の概念はスルーしておくわけです。しかし数と無限は切っても切り離せない関係にありますから、その後も神出鬼没に顔を覗かせます。中学校では無理数を学びます。2 の平方根
 
\[\sqrt{2}=1.41421356\ …\]
は小数点以下無限に続き、しかもその並び方に特定のパターンが見いだせなくなります。でもこの段階でもやっぱり無限について深く立ち入ることはしません。数学Ⅱの簡単な微積分で無限について少し触れますが、高校3年の数学Ⅲでようやく無限級数や極限操作を本格的に扱う微分積分を学びます(ただし、極限操作の厳密な扱いは大学の解析学で学びます)。つまり、数学Ⅲを履修しなかった人は、無限についてほとんど触れる機会がないまま数学の学習を終えてしまうことになります。なんだか少しもったいないような気がします。

無限の実在について論じます

 はたして無限は実在するのか否か? これはなかなかの難問なのです。
「今さら何を!? さっきまで無限を連呼しておきながら、それはないだろう」
とお怒りになられるかもしれませんが、無限という概念は認めるにしても、その捉え方については大きく分けて 可能無限実無限(実在無限) という 2 つの流派があるのです。

 まず可能無限について説明します。たとえば自然数を
 
\[1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8,\ 9\ \cdots\]
とかぞえていって、その「かぞえる行為」自体に終わりがないことは、ほとんど誰もが認めることだと思います。誰かが「かぞえ終わった! これが一番大きい数だよ!」と主張したところで、別の人が「それに 1 を加えるともっと大きな数になるよ」と反論できるわけです。ですから「かぞえるという行為は無限回数行うことができても、かぞえ終わった数、つまり無限大そのものは存在しない」というのが可能無限の主張です。

 それに対して実無限は「無限というもの自体が存在する」という主張です。
 たとえば円周率を「直径に対する円周の長さ」と定義した時点で、
 
\[\pi=3.14159265\ …\]
のように値は無限の桁まで確定してしまうということです。「人間がかぞえようとかぞえまいと、その値はあらゆる桁まで決まってしまっているのだから無限は実在する」ということです。さきほどの自然数の例でも「人間がかぞえるとか、かぞえないは関係ない。自然数は先の先まで決まっている」ということですね。数字の後ろについている「…」は「決まっているけど書けない」という意味の記号です。

 なかなか難しい議論ですが、円周率や √2 などの無限確定を認めないと、数学の土台がゆらぎかねないので、とりあえず実無限の立場で話を進めることにします。実無限の立場に立つと次のような奇妙な式が成り立ちます。
 
\[0.99999\ …=1\]
 「ウソだ」と思う人もいるかもしれませんが本当なのです。
 「 … 」は無限に 9 が続くという意味です。
 この式が正しいことは簡単に証明できます。まず
 
\[A=0.33333\ …\]
という数字 $A$ を考えます。それから両辺を $10$ 倍すると
 
\[10A=3.33333\ …\]
となります。右辺は $3+A$ と表せるので、
 
\[10A=3+A\]
 $A$ を移項して
 
\[9A-3\]
 両辺を $3$ で割ると
 
\[3A=1\]
 つまり $A$ の値を代入すると
 
\[0.99999\ …=1\]
が成り立つことになります。なんとも不思議な結論ですが、これが無限の世界なのです。

 ちなみに、数学では ∞ という記号で無限という存在を表すのですが、気をつけなくてはいけないのが、この記号は「数」ではないということです。あくまで概念記号ですから普通の数のように
 
\[\infty – \infty=0\]
とか
 
\[\frac{\infty}{\infty}=1\]
なんてことはできません。なんとなく便利なので微積分などでもこの記号を使いまくりますが、実のところかなり曖昧で怪しげな記号です。同じ ∞ を使っていてもその時々によって「どの程度の無限なのか」を考えなくてはなりません。だから厳密に無限を扱うなら ε – δ 式論法を用いるしかないのですが、そんな面倒なことをいちいちやっていられないので、とりあえず ∞ で表してその都度状況を考えるという方式が定着しているのです。いずれにしても無限というのは大変扱いづらく厄介な代物なのですが、それだけに底知れぬ魅力を秘めています。

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